ヒミツノハナシ(16)

2017年9月。
暑い夏も残すところわずか。
楽しい夏休みも終え、高校生折り返し地点あたりを少しばかり通り過ぎた生徒たちは、修学旅行の話で持ちきりだった。
今月末には修学旅行で沖縄へ向かう。
引率で行く先生方の決定等も含めて会議会議会議と、ここ連日会議ばかりしている。
テストもあるし、文化祭も目前。
2年生の9月はたくさんの行事で盛り上がるだろうが、修学旅行から帰ってきたらすぐ中間テスト。
勉強なんかしてる暇ないと言いつつ、勉強をしている松田が、珍しく渋い顔をしている。
眉間にしわを寄せ、なにか思いつめているように見えるが。
「どうした松田。顔怖いぞ。」
そう言うと、松田は眉間の力を緩めて答えた。
「え?そう?そうでもなくない?」
「いやいや、眉間にしわ寄ってて怖かったよ。」
「そっか。考え事すると周り見えなくなっちゃうんだよね。」
そういうと、松田はくるっと振り返り問題の続きを解いていた。
4日後。
いよいよ文化祭の日が訪れた。
文化祭。
ここは私の節目の日でもあった。
9月2日。
学校に「結婚」の報告をした。
結婚指輪をはめて初めて出勤する今日、その指輪に誰もよりも早く気づいたのはやっぱり松田だった。
「先生、結婚するんだね!」
それだけ言った。
この時の松田の気持ちは、来年の3月30日に分かることとなる。
そんな結婚の話と同時に文化祭も終え、いよいよ2年生は修学旅行が近づいてきた。9月25日から3泊4日で沖縄へ。
あの恐ろしいほどあった会議も、気がつくと会議数は通常通りに戻っていた。
25日の朝、羽田空港にはぞくぞくと生徒が集まってきた。
私たちは集合時間の何時間も前にここにいて、生徒たちを待っている。
幸い遅刻者は一人もいなかった。
高いところも狭いところも苦手という松田は大丈夫なんだろうか。
クラスが違うこともあり、様子を確認することができなかった。
この4日間、沖縄で生徒たちは「楽しい」という思い出だけを作ったのだろうか。
目的を忘れたままじゃぁ、なんの意味もない気がするが。
修学旅行も無事に終え、9月に終わりを迎えた。

Nozomi Matsuda

If you become a teacher,exceed me.

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