ヒミツノハナシ(15)

2017年7月。
今年も暑い暑い夏が来た。
子供達の待ちわびる夏休みはあと半月くらいだろうか。
生徒たちは毎朝汗だくになりながら自転車をこぎ、学校に来る。
教室はクーラーが効き、涼しい。
日の当たらない廊下は、クーラーが効いているわけでもないのに、夏とは思えないほど涼しい。
さすがの私も、寒がりとは言えど、半袖のYシャツに袖を通していた。
この調子じゃ、9月末に行く修学旅行は、耐えられないくらい暑いのだろう。
今以上に暑いということを想像すると、めまいがしそうだ。
いつも通り、自習スペースで勉強している松田は、タオルを頭に巻いて、左手で抑えながら、左肘でノートを抑え、勉強している。
もっと快適な場所を用意してあげたい。そう思い、数学科室へと案内した。
「松田、暑くないか?ちゃんと水分とってるか?」
「あっついよもう、耐えらんない。水分?だいぶとってるよ。」
「暑いし、熱中症とかもやばいから、数学科室いこう。」
そう言うと、松田はぽかんと口を開けた。
「ほら、熱中症になっても困るから。」
そう言うと松田は荷物をまとめ出した「数学科室なんてあるんだ。先生ありがとう。」と言った。
職員室のある棟の5階にある数学科室は、エアコンが効いていてめちゃめちゃ涼しい。
「うわぁ!涼しい〜!」
松田は笑顔だった。
最近、松田の笑顔を見る回数が減りつつあった。
それも含めて聞きたかったのだ。
「松田さ、最近なんか悩んでる?」そうたずねると松田は何か怖いものでも見たような目でこちらをみる。
「なんでわかったの?すごい。」
「そりゃぁ、普段からお前のこと見てるんだから気づくよ。」
「すごい…」
「なんかあるんだろ。話してみろ。」
「今更なんだけど、4月の最初の数IIの授業でね、わからないところを質問したんだけど、どこがわからないのかイマイチわからなくて。そうやって言ったら、もう手の施しようがないねって言われて、ムカついたから授業聞いてないし受けてないの。」
驚いた。
そんなこと、2学年位職員会議で一切出なかった。松田は、担任や他の先生に話したと言うのに、どうして職員会議で出ないんだ?謎が謎を呼ぶ闇の謎がどんどんどんどん深刻化していく。
いくら生徒一人だけの声といえど、下手したら体罰として訴えられてもおかしくないこの状況で、いったい他の教職員は何を考えているんだ?
「そうか。解決には向かわなそうか?」
「だってもう、私あの人嫌いだもん。無理。」
松田の頬を伝って、Yシャツにシミを作る涙。
必死の訴えも、いとも簡単に消すことができるのだ。
涙を流す松田は、私の顔を見なかった。
そうして、仲が悪くなったまま夏休みを迎えてしまった。

Nozomi Matsuda

If you become a teacher,exceed me.

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