ヒカリノアトリエとシシャ
みなさま、お久しぶりです。
部屋の掃除をしていたら、中学1年生の時に課題で書いた小説が発掘されました。
中学1年生と言うと、もう6年も前の話なんですけど...
6年前に書いた作品の割に、なかなかの出来だったので、原本そのまま編集なしで下記に掲載したいと思います。
昨晩から降り続くいている雨は、地面の色を変え、空をどんより暗い色に変えた。
雨が吹き込まないベランダの窓を静かに開けると、雨の日しか匂わない”雨の香り”が私の鼻を伝い味に変わった。
この雨のせいで、お客は来ない。
普段から少ないお客の数は、こうも天気が悪いと、絶対に来ない。
私しかいない店の中は、木の香りとコーヒーの香りがして、屋根を打つ雨の音が聞こえてくる。
小さな明かりの下には、まだ何も描かれていない真っ白なキャンバスが置いてある。
湯気を立てている煎れたてのコーヒーは、私の顔を歪めて見せた。
コーヒーも冷めだした頃、急に雨脚が強まった。
心地よかった雨音も、今は少し耳障りな雨音になっていた。
すると、店の入り口、スモークガラスの向こう側に小さな人影が現れた。
私は、店の扉を開けた。
木と木が擦れる音を立てて、扉が開いた。
そこに立っていたのは、雨ガッパを着た少年だった。
「僕、寒いから入るといい。」
私がそういうと、ペコリとおじぎをしながら「ありがとう」と言った。
少年が脱いだ黄色い雨ガッパと黄色の傘を干した。
少年の雨ガッパといい、傘といい、長靴や帽子、カバンまでもが黄色だった。
「僕、黄色が好きなのか?」
と、聞くと、白いタオルをかぶって、両手でココアの入ったコップを持ったその少年はコクリとうなずいた。
「ぼく、きいろがすき。キラキラしてて、かっこいいからすき。」と言った。
「僕、おじさ・・・。」と言いかけた時「ぼく、じゃない。だいき。」少年はそういいながら名を名乗った。
「ごめんな、だいき。おじさんな、絵描きなんや。」
そういうと少年は、カバンから一枚の紙を出して私によこした。
その少年が描いたという車の絵。
色彩のうまさに心を奪われてしまった。
「だいき・・・。この絵。」と言葉を失った私に、小年だいきはこういった。
「ぼく、くるまのえをかくのがすき。」
にしてもうますぎる。車の曲線の光の反射、影までもが細かに描かれている。
なんて精密なんだと思った。
「じゃぁ、おじさんも絵を描いてもいいかな。だいきの絵。」と笑いかけた。
少年だいきは、大きく顎を引いた。
「ここは、おじさんのアトリエだよ。」
そういうと、少年だいきは私の指さした方向にある四本脚の小さなイスに座った。
私は、小さな明かりの下に置いてある真っ白なキャンバスをどかして、それよりも少し小さなキャンバスを置いた。
何が入っていたかは覚えていない正方形の管に無造作に入れられた10Bの鉛筆を取り出した。
いつものように、頭を描いて、首を描く。
胴体、そして手足の順に鉛筆を走らせて、10分も経たないうちに少年だいきのシルエットが出来上がった。
一般的には、クロッキーと呼ばれている技法だ。
少年だいきの絵を描き始めてから、どれくらいの時間が過ぎたんだろうか。
雨はやみ、入り口横のあじさいが太陽の光を反射させて、キラキラ光っている。
「おじさんできたー?」
少年だいきが突然言葉を放った。
この沈黙の時間、私は色付けまで進んでいた。
「もう少しでできるよ。」
私は、少年だいきの顔を見ることなく言った。
少年だいきの返事はなかった。
作品と会話に終わりを迎えた時、再び木と木の擦れる音がして、目を向けた。
そこに立っていたのは、雨の日、ないしは雨上がりに着るにはふさわしくない、真っ白なワンピースを着た女性が立っていた。
1度も店には来たことのない人だった。
「あ、おかあさん!」
少年だいきは女性のところへ駆け寄った。
「やっぱりここにいたのね。」
笑顔の美しい女性だ。
少年だいきは”おかあさん”と呼んでいる女性の白いワンピースに顔をうずめた。
───なんだろう、この感じ。
どこかでみたことあるような・・・。
急に、何か焦げているような臭いが鼻についた。
振り返っても何もない。
あたりを見回しても何もない・・・はずだった。
さっきの少年だいきも女性の姿が見当たらない。
怖くなって目を瞑った。
すると、体が熱く感じた。
恐る恐る目を開けると、目の前は火の海だった。
”アトリエが燃えている”
───思い出した。
どうして私がここで絵描きをしているのか。
私が1人でここにいる訳。
昔、3年前。
私が、仕事で家にいなかったあの日、ちょうどローンの返済に終わりを告げた我が家が燃えた。
後で聞いたところによると、火の不始末だったらしい。
自宅は全焼。
2人の遺体。
助かった私。
私が愛した、大切な妻と息子。
幼いころから絵を描くのが得意だった私。
大学時代に出会った妻。
私たちに似て、絵を描くのが大好きな5歳になった息子。
朝、見送ってもらった私の背中を最後に、会うことなくこの世を去った。
この場所は、3人で過ごした大切な家。
ここはアトリエ。
妻と息子の帰る場所。
このアトリエには、ヒカリを求めてやってくるシシャたちがいる。
私の仕事は、ヒカリを失ったシシャ達のためにヒカリを与えること。
ヒカリノアトリエには今日もシシャが出入りする。
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では、次回の更新をお楽しみに!
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