ヒミツノハナシ(20)

2018年1月。
年も開け、3学期のスタートと同時に人事異動について微かな情報を小耳に挟んだ。
もしかすると、教育委員会への人事異動かもしれない。
この不確かな情報を絶対に、松田の耳に入れないためにも自分自身は絶対に黙っておこうと決めた。
黙っていたことで、松田を傷つけると言うことは、この時まだ誰も知らずにいた。
不確かな噂が流れ出してから数日後の放課後、自習スペースでいつもなら勉強しているはずの松田が、澤井先生の隣で泣いていた。
そんな姿を見ていたのに、もしかしてと思い不安になり声をかけることができなかった。
もしも松田に不確かな情報が知られていたらどうしようという不安に襲われた。
嘘か本当かも、本人さえ知らないのに、何が「違うんだ」と話さなければならないんだろうか。
無責任に「大丈夫」とも言えず、「わからない」と言って不安にさせることもできない。
この時どうするのが正解だったのか当時の私はわからなかった。
泣いている松田の背中を見ていることしかできない自分の不出来さ、弱さが積もり積もって、無気力になった日があった。
幸い授業がなく、職員室にこもりっぱなしだったが、この無気力感をなんとかしたいと思い行動に出そうとしたのだが、一歩が踏み出せなかった。
私はこれまで、優秀やできのいい後輩、すごい先生と言われてきたこともあったが、実際は全然そうじゃない。
私はそんなにすごくないし優秀じゃないし、不出来だ。
あとで澤井先生から話を聞いた。
「相沢先生、あの松田のことちょっといいですか。」
澤井先生が小さな声でそう声をかけてきたので、非喫煙者の澤井先生と喫煙者の私は、喫煙所としている校外にある川沿いに出た。
「へぇ、そんなことを松田が…。」
一連の話を聞いて思わず、そう口にしてしまった。
「そうです。異動の話、本当でも嘘でもわかんなくてもいいから話して欲しかったって。だから僕は、相澤先生なりに考えて、言わないって選択をしたんじゃないの?って話をしたんですよ。だけど松田は、でもの一点張りで。」
松田は、嘘でも本当でもわからなくても、話して欲しかった言うが、話して良かったんだろうか。
傷つく松田を見たくないというのは綺麗事だろうか。
「人付き合いが苦手なのに、相沢先生がいなくなったら、なんにも聞けないし、話し出せない。って言ってましたよ。相沢先生は、松田に好かれてますもんね。羨ましいです。だって、俺じゃダメなの?って聞いた時も、数学教えてくれる?って聞き返してきましたもん。僕が社会科だってわかってんのに。」と澤井先生も悩み出していた。そんな悩みと戦っていたら1月が終わった。

Nozomi Matsuda

If you become a teacher,exceed me.

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