ヒミツノハナシ(4)

2016年6月。
梅雨に入り、雨は毎日のように降り続いた。
ジメジメとしたあの空気感は毎年毎年不快感を覚える。
6月に入ってもなお松田は毎日勉強していた。
偏差値のさほど高くないこの学校で懸命に勉強をする姿はとても凛々しく見た。
最近では自習スペースの住人なんて呼ばれて他の学年の先生方とも仲良くなっている。
「松田、今日はなんの勉強だ?」
私が尋ねると、松田は問題集を閉じて私に見せた。
「これ、塾の宿題。終わらないんだよなかなか。」ニコッと笑みを見せ、再び問題を開く。
松田が数学を好きになってくれたのかもしれないと期待をしたが、まだ聞かないことにした。
「今日も雨だね、先生。」
ふと、松田が言葉を発した。
そろそろ集中が切れるだろうって頃に顔を出すと決まって松田が喋り出す。
「そうだなぁ。いい加減やめよって思うけどな。ジメジメして嫌だ。」私はふてくされた子供のように言った。
「ねぇ、先生。」
松田は私の目を見て呼んだ。
「なんだ?どうした?」と目をそらさず聞き返すと松田は言った。
「先生は、ADHDとLDって知ってる?」突然の問いに一瞬戸惑ったがちゃんと答えた。
「知ってるよ。でもどうしてそんなこと?」ともう一度尋ねると、「私、ADHDとLDなの。」と答えた。
確かにこれまでどちらの傾向も見てきた。
一致する部分は何点かあるが完璧でなくてなかなか切り出すことができなかった。
「そうなのか。でも、不自由にしてないじゃないか。松田がこうして数学の問題を一生懸命解いてくれてるだけで俺は幸せだよ。」と私は答えた。
「え、そうなの?こんだけ出来が悪かったら先生も流石に呆れてると思ってたけど。」
松田は、なんだか悲しい顔で笑いながら言った。
「なんで、俺が呆れなきゃいけないわけ?呆れる要素ないけど。」
すかさず私は答えた。
「だって、先生からしたらこんな問題簡単でしょ?なんでこんな簡単な問題も解けないんだって思ってるんじゃないの?」
松田は今までそういう経験をしてきたんだろうか。
「俺、そんなこと思わないよ。」
「そっか。先生に会えて良かったなぁ。」
松田は嬉しそうに言った。
「俺もお前に出会えてよかったと思うよ。」
私の思いは、彼女に届いているのだろうか。

Nozomi Matsuda

If you become a teacher,exceed me.

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